• 日本企業は、シンガポール企業及び香港企業に比較して、規制当局による法令違反調査への対応体制整備に遅れ
  • 多くの企業が向こう1年間はリスク管理に関する社内指針や手順を向上させるためのリソースの強化に引き続き取り組む見込み
  • シンガポール企業及び日本企業の多くが、当局による立入調査への対応を定めたガイドラインや研修を導入未了
  • 企業はデューデリジェンスの実施及び保険の設定を通じたM&Aリスクの低減を重視

【アジア・パシフィック発 2018年12月11日】ベーカーマッケンジーが香港、シンガポール、東京を拠点とする企業の担当者260名を対象に行った調査の結果、アジアの主要金融センターでビジネスを展開する企業の多くが、急速に変化する法規制環境への対応がビジネスにおける最大のリスク要因であると認識していることが分かりました。

ポジティブな側面としては、シンガポール企業の回答者の65.5%、香港企業の回答者の62.5%が、試験運用はこれからであるものの、適切な制度を既に設けており、規制当局による調査に対して十分な備えができていると回答していることが挙げられます。その一方で、日本企業の回答者の53.8%が、主なリスクや対策について、現段階ではよく分からないと回答しました。

世界各国の規制当局は、企業の不正やコンプライアンス違反に対する取り締まりを一層強化しており、立入調査の件数も増加傾向にあります。しかしながら、日本企業の回答者の62.2%、シンガポール企業の回答者の43.8%が立入調査への対応に関するガイドラインを設けていないと回答しました。これに対して、香港企業の回答者の61%が、抜き打ちの立入調査に備えた社内ガイドライン及び手順を定めていると回答しました。しかしながら、立入調査への対応に関する従業員への研修については、各国の企業の回答者の多く(日本82%、シンガポール61%、香港48%)が実施していないと回答しました。ベーカーマッケンジーのグローバルコンプライアンス・調査グループのアジア・パシフィック地域代表を務めるミニ・バンデポル(Mini vandePol)は、「立入調査への場当たり的な対応は、企業に深刻な事態を招くことになりかねません」と指摘します。「従業員は、無意識に立入調査を妨害したり、秘匿特権により保護されるはずの内部情報への無条件のアクセスを当局に許容してしまうリスクにさらされる可能性があります。また、ビジネスに多大なダメージを与え得る風評リスクも考慮する必要があります。」

vandePolはさらに、「抜き打ちの立入調査に適切に対応できるよう備えておくことは企業にとって極めて重要です」と指摘します。「立入検査を受けたとき、法令に則り自社の権利や利益を適切に保護するためのガイドラインや手順書を作成して、必要な研修を実施するとともに、実際の立入調査の場面を想定した実地訓練を行うことで、関係する全ての従業員に当局担当者が不意に来訪した際の適切な対応や行動をよく理解しておいてもらうことがさらに重要です」と述べています。

ベーカーマッケンジーが開発した「Global Dawn Raid」アプリは、実際に立入調査を受けた企業に対し、リアルタイム且つ段階的に、実用的なアドバイスを提供するアプリです。44か国に対応し、贈収賄防止法、独占禁止法、租税法違反の疑いをめぐる民事・刑事双方の立入調査においてすべきこと・してはいけないことに関するガイダンスを提供します。ユーザーは、本アプリを使用して現地のベーカーマッケンジーの専門家に直接コンタクトをとることが可能です。さらに、携帯端末等の撮影機能にもアクセス可能なため、ユーザーは立入調査令状などの重要書面を撮影し送信することができます。これにより、ベーカーマッケンジーの専門家は立入調査が行われている現場への到着を待たずに迅速にリーガルサポートの提供を開始することができます。

規制コンプライアンスの他に企業の経営幹部や社内弁護士が重視する課題としては、「サイバーセキュリティ」「コスト圧力の上昇」「保護主義・地政学的リスクの高まり」が挙げられます。今回の調査では、対象3か国全てにおいて回答者の40%以上が、自身が所属する企業について今後1年間に危機管理に関する社内指針や手順の整備に向けた投資を拡大する見込みであると回答しています。

国境を跨ぐM&A取引が増加する中、デューデリジェンスを通じた取引リスクの低減も企業の主要な関心事となっています。今回の調査では、「ますます厳しくなる時間的制約のもとでデューデリジェンスをいかに組み立てるか」及び「デューデリジェンスの過程で発覚する不正確な/誤解を招く/虚偽の情報に伴うリスクをいかに管理するか」が引き続き2大重要課題であることが示されました。さらに、「表明保証保険に基づく権利をどの時点で行使するか」も依然として慎重な検討を要する課題です。

紛争解決グループのアジア・パシフィック地域代表を務める武藤佳昭弁護士は、「クロスボーダービジネス案件には、法規制へのコンプライアンス、国ごとに異なる税務会計制度への適応、文化やビジネス慣習の違いなど、各事案ごとに特有の課題が伴います。そのため、リスクの低減やデューデリジェンスのやり方に関して普遍的に万能なアプローチというものは存在しません」と指摘します。

さらに武藤弁護士は、「クロスボーダービジネス案件については、初期の段階でコンプライアンスの専門家を関与させることをお勧めします。デューデリジェンスの作業に専門のアドバイザーが関与するタイミングが早ければ早いほど、危険信号や懸案事項を早期に察知・特定してこれに対処できる可能性が高まり、ディール完了後にそのリスクの発言によって取引の価値や企業の評判が毀損するのを防ぐことができる可能性も高まります」と述べています。

PDFをダウンロードする