• 内部通報の報告は増加傾向
• 72%がいじめ、差別、ハラスメント:職場の人間関係が最も重要な懸念事項
• ESGコンプライアンスの監視対応はオーストラリアと日本の企業が先行

アジア太平洋地域では、これまで以上に内部通報の報告が増加しており、他方で守秘義務や通報者保護法の要件を満たせずむしろ法令違反の危険に晒されている企業が多数あることが、ベーカーマッケンジーの新たな調査報告書 「アジア太平洋地域内部通報の現状: 基準と成功事例 (Asia Pacific Whistleblowing Landscape: Benchmarking and Best Practices)」 によって明らかになりました。

オーストラリア、中国本土、香港、シンガポール、日本のビジネスリーダー523人を対象に行った調査に基づくこの報告書では、回答者の41%が過去1年間に内部通報の報告の増加をみたと指摘しており、この数字は中国本土では74%、香港でも61%にも上ることが明らかにされています。この傾向は、新たな内部通報規制、社会的注目の高まり、金銭的インセンティブの提供などによって、今後も続くと見られています。

回答者の大多数(72%)は、現職の従業員から寄せられる内部通報の大部分(80%)が「いじめ、差別、ハラスメント」であることを挙げています。次いで「社内規定違反」(62%)、「職場の健康と安全に関する問題」(55%)となっています。3分の1の回答者(33%)は、「環境、社会、ガバナンス(ESG)問題」に関する通報を受けたことがあると答えています。ESG問題に対する認識が高まり、政府や規制当局が気候変動緩和のために環境保護の取組を強化していることから、この数字は今後数年間でさらに上昇することが予想されます。

このような背景から、企業には内部通報を効果的に管理し、対応することが求められています。調査によると、89%の企業が正式な内部通報方針を文書化している一方で、半数以上(53%)は、地域や国ごとの現地事情に応じた調整を行わず、一律にグローバル方針を適用していることが明らかになりました。

更に報告書は、オーストラリア、中国本土および日本にフォーカスを当て、各国の現状について統計を用いて概説しています。2022年6月1日より改正公益通報者保護法が施行された日本でも、内部通報における対応が平均値より高く、サポート体制の厚さが示されています。

ベーカーマッケンジー東京事務所の紛争解決グループ代表の武藤佳昭は、「今回の分析結果をみると、日本の企業は他国より内部通報制度の受容が進んでいるように伺えます。しかし、グローバル化する企業は、個々の市場ごとの複雑性と法律と文化の両面のニュアンスを理解し、内部通報に係る法令規制がそれぞれの地域や法域ごと異なる進化をしていることを考えて、全世界的に画一的なアプローチではなく、国や地域ごとに調整し、最新の情報を常にアップデートしていく必要があります」と語っています。

「アジア太平洋地域内部通報の現状: 基準と成功事例」レポートは、2022年1月から3月にかけて、オーストラリア、中国本土、香港、シンガポール、日本の医療・ライフサイエン ス(HLS)、金融機関(FI)、テクノロジー・メディア・通信(TMT)、エネルギー・鉱業・インフラストラクチャー(EMI)、コンシューマーグッズ&リテール(CGR)、産業・製造・輸送(IMT)の6つの産業分野における企業のビジネスリーダー523人を対象に実施した独自の調査に基づいています。

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