(本リリースは 2017 年 11 月 13 日、グローバルで発表したリリースの抄訳です)

  • 2018年の全世界におけるM&Aのディール総額は3兆米ドルを超える見通し
  • IPOによる調達総額は2017年比50%超増の約3,000億米ドルに達する見通し
  • 主要経済国による保護貿易政策の可能性をめぐり先行き不透明感が持続
  • 北米・ヨーロッパでは2018年、その他の地域では2019年にピークを迎える見通し

【グローバル発 2017年11月17日】ベーカーマッケンジーは、Oxford Economicsと共同で実施した全世界における企業のM&A/IPO活動に関する調査結果を発表しました。当調査報告書では、主要な政治的・経済的リスクの緩和と投資活動に影響を与えるマクロ経済的要素の好転を背景に、2018年は全世界における企業のM&A/IPO活動が加速するであろうとの見通しを示しています。

2017年は世界のディールメーカーにとって懸念の多い1年でした。ただ、経済成長は減速した一方、一部で予想された危機的な状況は回避されました。今回のOxford Economicsとの共同調査では、2018年は2017年後半の好調を引き継ぎ、ディールの促進剤となり得るマクロ経済面及び金融面のいくつかの要素が周期的なピークを迎えることにより、世界の主要市場で企業のM&A/IPO活動が活発化すると予想しています。

本調査では、2018年に向けて、世界貿易と経済成長の上昇傾向、株価の上昇、新興市場における安価な資金調達への期待といったポジティブな要素から投資意欲が高まり、世界中の投資家が自信を回復しつつある背景を明らかにしています。

ベーカーマッケンジーのエグゼクティブ・コミッティのチェアマンであるポール・ローリンソン(Paul Rawlinson)は、「2017年は好調とは言えませんでしたが、2018年は、世界の自由貿易体制にこれ以上歯止めがかからない限り、世界経済にとっても、企業の取引活動にとっても、比較的良い年になるのではないかと考えています。ディールメーカーと投資家が買収対象企業や新規上場企業のビジネスの展望に関して自信を獲得しつつあり、M&A活動、IPO活動ともに活発化しています」と述べています。また、ローリンソンは、「ただ、英国のハードブレグジット(強硬なEU離脱)やNAFTAの崩壊がともに未だ現実味を帯びている中で、予断を許さない状況であることも確かです。企業は引き続き自由な貿易活動/投資枠組みの有益性に説得力を持たせるべく努力していく必要があるでしょう」とも指摘しています。

M&A市場の見通し

ベーカーマッケンジーが2017年1月に実施した前回予測では、同年のM&A市場について、全世界におけるディール総額は2016年の2兆8,000億米ドルから2兆5,000億米ドルへと微減するものの概ね横ばいとの見通しを示しました。

ベーカーマッケンジーのM&Aグループ代表のマイケル・デフランコ(Michael DeFranco)は、「2017年は、予想通りの年となりました。世界経済に前向きな進展が多く見られたことで、今回の予測では、2018年の世界におけるM&Aのディール総額について、前回調査時点で予測した3兆米ドルから3兆2,000億米ドルに引き上げています。これが実現すれば、年間のM&Aディール総額としては、2001年以降3番目、2008年の世界金融危機以降2番目に大きな数字となります」と述べています。

経済面での明るい進展に加えて、成長や収益の追求、シナジーの達成を目的とする統合の実施、内部留保の増加、ビジネスモデルの転換を目的とするM&Aの実施等といった企業戦略上の要素もまた2018年のM&A活動の活発化を後押しするでしょう。

本調査報告書によれば、2019年以降は、金利の上昇、世界の貿易・投資成長の周期的な減速、株価の修正等、様々な要因により特に先進国市場でのM&A活動は減少に転じるとしており、ディール総額は2019年に2兆9,000億米ドル、2020年に2兆4,000億米ドルまで減ずると予測しています。

IPO市場の見通し

IPO市場について、本調査報告書では、2017年に1,870億米ドルであった調達総額が2018年には過去最高に迫る2,900億米ドルに達し周期的なピークを迎えると予測しています。これは前回の周期的ピークである2014年の2,760億米ドルを若干上回っていますが、その前のピークである2010年の3,000億米ドル強に比べると低い数字に留まっています。ただ、本調査には、資金調達の規模と時期が明らかとなっていないサウジアラムコのIPOを含めていません。もしこの案件が2018年中に実行されれば、IPO市場における年間調達総額としては過去最高を記録する年となる見込みです。

ベーカーマッケンジーのキャピタル・マーケットグループ代表のコーエン・ヴァンハレンツ(Koen Vanhaerents)は、「前回の調査報告書で予測したように、2017年は、IPO市場がM&A市場に先立って持ち直しました。世界的に見ると、2017年は、国内の株式市場へのIPOによる調達総額が1,450億米ドルとなり、2016年の920億米ドルを上回りましたが、国内IPO活動は引き続き活況を維持し、2018年には調達総額が2,200億米ドルを超えてピークに達すると見ています」と述べています。さらに、ヴァンハレンツは、「ただ、2019年以降は、株式評価の上昇や借入コストの増大に伴い、国内IPOによる調達総額は減少に転じる可能性があります」と指摘しています。

M&A市場と同様に、IPO市場においても、様々な要因から2019年以降は取引活動が減少に転じ、調達総額は2019年には2,740億米ドル、2020年には1,870億米ドルまで減ずると予測しています。

産業分野

2017年は、メガディールの勢いもあり、一般消費財、エネルギー、素材関連の各分野でM&Aの動きが加速しました。2018年も、引き続き世界的に個人消費の増大が期待されていることを踏まえ、一般消費財部門のディール総額が6,330億米ドルまで伸ばす他、ファイナンス部門のディール総額も6,160億米ドルに達すると予測しています。

医薬・ヘルスケア部門は2017年は伸び悩んだものの、高齢化や人口動態の変化などの長期的動向を背景にM&Aの動きが活発化することが予想されます。テクノロジー・電気通信部門でも2017年はM&A活動が落ち込みましたが、各産業分野で新技術の取り込みをめぐる動きが活発化していることと、中国やサウジアラビアなどの新興市場からテクノロジー企業に活発な投資が行われていることから、向こう2年間でディール額が持ち直すことが予想されます。

「フードテックやフィンテック、自動車産業など、各分野で新技術を取り込む動きが活発化していることから、向こう2年間は、テクノロジーをめぐる分野横断的な事業再編の動きが加速することが予想されます。企業のM&A活動は必然的に活発化するでしょう」とデフランコは指摘しています。

テクノロジー・電気通信部門は、テクノロジー企業の株式公開を後押しする中国政府の取り組みの追い風を受けて、2018年のIPO活動の回復を牽引することが予想されます。世界的に家計支出が高い水準で推移する中、一般消費財・サービス企業も堅調な市場環境の恩恵を享受することになるでしょう。

地域

北米及びヨーロッパでは、2018年にM&A及びIPO活動が周期的なピークを迎えると予測しています。北米における2018年のM&A活動は2017年比15%増の1兆5,000億米ドルまで回復、国内IPOによる調達総額は2017年比77%増の780億米ドルで過去最高に達する見込みです。ヨーロッパにおける2018年のM&A活動は2017年比34%増の8,560億米ドル、国内IPOによる調達総額は2017年比58%増の600億米ドルに達する予想です。

アジア・パシフィック、ラテンアメリカ、中東・アフリカの各地域では、2019年にM&A及びIPO活動の周期的なピークを迎えると予想しています。アジア・パシフィック地域では、2019年にM&A活動が7,540億米ドル、国内IPOによる調達総額は820億米ドルでそれぞれピークに達する予想です。ラテンアメリカ地域では、2019年にM&A活動が1,340億米ドル、国内IPOによる調達総額は75億米ドルでそれぞれピークを迎える予想です。中東・アフリカ地域では、2019年にM&A活動が410億米ドル、国内IPOによる調達総額が70億米ドルでそれぞれピークを迎える予想です。

当調査報告書の全文はこちらからご覧ください。

また、当調査に関する弊事務所特設サイト(Global Transactions Forecast – Deal Appetite Rising)はこちらからご覧いただけます。

Global Transactions Forecastについて

Oxford Economics(以下OE)は、各種統計手法を用いて企業のM&A/IPO活動とこれらを促進する各種要素(GDP成長率、株価、貿易動向、通貨供給量、法制度、財産権制度、自由貿易制度等)との関係性を評価しています。

OEでは、世界40市場のGDP成長率予測及び各種指標の変化予測に基づき、M&A及びIPO取引の将来的な価値を予測します。予測の作成には、世界各地のベーカーマッケンジーの専門家により提供される各市場の最新動向や各国における取引傾向に対する見解も役立てられています。ディール動向の予測は、発表されたディール価額ではなく、完了したディールのデータを用いて作成されます。実際の成果を予測に反映できることから、分析的モデリングの観点からも、完了したディールのデータを用いる方が理にかなった方法であると言えます。予測値の算出にあたっては、国際通貨基金(IMF)が定める標準分類に準拠して国を分類しています。

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