2021年6月14日、経済産業省及び財務省は、中華人民共和国及び大韓民国を原産地とする溶融亜鉛めっき鉄線に対する不当廉売関税の課税に関する調査を開始する旨を公表した¹。溶融亜鉛めっき鉄線(HSコード:7217.20-019)に対する日本のWTO税率は無税であり²、現在は両国から関税負担なく輸入することが可能となっている。

溶融亜鉛めっき鉄線は、伸線工程を経た鉄又は非合金鋼の線の表面に亜鉛めっきを施したものであり、主として金網類(フェンス、落石防護柵、落石防護網、じゃかご、クリンプ金網、亀甲金網)や各種有刺鉄線、さらにはパルプ結束線等の結束用途に用いられる³。溶融亜鉛めっき鉄線を含む世界の亜鉛めっき鉄線の市場規模は、2020年に45億1,819万ドルと評価され、2021年から2027年にかけては年率2.97%で成長し、2027年末までに60億7,658万ドルに達すると予測されている⁴。

本件では、平成28年度から令和元年度までの間に、中国産溶融亜鉛めっき鉄線の輸入量が21,008トンから36,636トンに、韓国産の輸入量が8,889トンから11,235トンに、それぞれ約74%、約26%増加し、両国の輸入品全体に占めるシェアも、約72%から約86%に増加している⁵。日亜鋼業株式会社を始めとする国内生産者4社は、これらの輸入品は、中国産が25-35%、韓国産が20-30%、不当に安く輸出されており、それにより国産品の販売量が著しく減少等したとして、本年3月31日に不当廉売関税の課税を求める申請を行った。これを受け、今般、経済産業省及び財務省による調査開始決定がなされ、本年7月21日までを期限として、中国・韓国の供給者10社等に質問状の送付・回答がなされたところである⁶。

WTO協定上、不当廉売関税の調査開始から最終決定までの期間は原則1年以内と定められており(AD協定5.10)⁷、我が国の過去の例では、調査開始から約8-10か月程度で仮決定がなされ、その後、確定措置が発動される前に暫定措置(同協定第7条)の決定・発動がなされることが多い。

本件調査開始決定を踏まえ、中国・韓国と溶融亜鉛めっき鉄線の取引を行う企業においては、今後とも最新動向を把握し、適切な対応を講じることが必要となる。

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¹ https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210614004/20210614004.html
² 税関「実行関税率表(2021年4月1日版)」を参照。https://www.customs.go.jp/tariff/2021_4/data/j_72.htm
³ 脚注1の(注2)を参照。
⁴ 株式会社グローバルインフォメーション「世界の亜鉛めっき鉄線市場:洞察と予測(2027年まで)」(2021年5月7日)の「概要」を参照。https://www.gii.co.jp/report/qyr1004173-global-galvanized-iron-wire-market-insights.html
⁵ 財務省関税局「資料3:中華人民共和国産及び大韓民国産溶融亜鉛めっき鉄線に対する不当廉売関税の課税に関する調査の開始」(2021年8月2日)1頁参照。https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-of_customs/proceedings_tokusyu/material/20210802/kanb20210802siryo3.pdf
⁶ 財務省告示第百六十三号(令和三年六月十四日)三及び九(三)を参照。https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/trade-remedy/investigation/harigane/data/210614_kokuji.pdf
⁷ https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/it/page25_000414.html

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