COVID-19による市場の動揺や社会経済・個々人の生活への影響が、企業及び投資家に対して、財務危機にある他社の事業を有利な価格で買収する貴重な機会を与え得ることから、財務危機にある企業・事業の買収(ディストレストM&A)への関心が高まっています。この点、米国におけるディストレストM&Aの最も基本的な手法は、米国連邦倒産法363条に基づく資産・事業の譲渡(363条譲渡)です。米国連邦倒産法に基づく倒産手続が世界各国の倒産手続に対して大きな影響を及ぼしていることからすると、米国企業を対象企業とするディストレストM&Aを検討する企業・投資家はもちろんのこと、グローバルに展開する事業に関するディストレストM&Aを検討する企業・投資家にとっても、363条譲渡に関する基本的理解を得ておくことが望ましいと思われます。そこで、本稿では、363条譲渡の主たる特徴を解説するとともに、363条譲渡が買主にとって検討価値のある買収手法である理由や、米国連邦倒産法第11章に基づく再建手続(いわゆるチャプター11手続)において策定される再建計画を通じた買収との比較について概説します。