2017年度の各国人権侵害防止関連法の重要アップデート

2017年度は、人権侵害防止を目的とする各国法令において、新たな動きが生じた年でした。本ニュースレターでは、各国人権侵害防止関連法の重要なアップデートをお伝えするとともに、今後の実務対応について提案します。

2017年度アップデートの概要

2017年度における各国人権侵害防止関連法のアップデートの概要は、以下のとおりです。

  • フランス人権デューデリジェンス法の発効
  • 英国現代奴隷法実務ガイドの改訂
  • オーストラリア現代奴隷法の立法化に向けた議会委員会による最終意見報告
  • EU紛争鉱物規制(EU2017/821)の採択
  • 米国ドット・フランク法紛争鉱物規制の廃止に向けた動き

フランス人権デューディリジェンス法の制定・施行

フランスでは、2017年3月に、フランス人権デューディリジェンス法(Law No. 2017-399)が発効しました。同法は、企業に対して、人権侵害リスクの特定・回避を目的としたデューディリジェンスの実施を義務付けています。人権デューディリジェンスの対象には、当該法人や直接・間接を問わない子会社の活動のみならず、すでに取引関係が成立している下請会社やサプライヤーの活動も含まれています。具体的には、同法は、①リスクの特定、分析等を目的とするリスクマップの作成、②全子会社、既に取引関係のある下請会社又はサプライヤーに対する定期的評価の実施、③リスクを軽減する又は重大な被害を回避するための適切な手段の採用、④リスクに関連したアラートの発信や内部通報性制度の確立、⑤上記手段のモニタリング及び実効性評価の手続の確立をとることを義務付けた上、年次報告書での報告開示を義務づけています。

適用対象は、フランスに本社を有する法人のうち、連続する2会計年度末において、フランス子会社の従業員と合わせて5,000人以上、又はフランス子会社及びフランス外子会社の従業員と合わせ10,000人以上の従業員を有する法人です。日系企業も、当該要件を満たす限り適用されます。

同法のもとでは、違反の場合、裁判所による執行命令の対象となり、また、違反しなければ生じなかったであろう損害について、民事賠償責任を負う可能性があります。

英国現代奴隷法

英国では、2015年3月26日、英国現代奴隷法(UK Modern Slavery Act)が制定され、一定の企業に対し、サプライチェーン等における現代奴隷防止のための取組みの公表を義務付けており、同年10月19日に公表された「サプライチェーン等における透明性に関する実務ガイド」(以下、「実務ガイド」)においては、適用基準の明確化、ベストプラクティスの例示等がなされていました。内容の概要は、当事務所発行が2016年11月に発行したクライアントアラートをご参照ください。

2017年10月4日には、当初の公表以来初めて実務ガイドが改訂され、①法律上推奨される声明公表対象事項について、「may contain(含みうる)」から「should aim to contain(含まれるようにされるべきである)」へと表現の変更、②適用要件を満たさない企業についても、適用ある大規模企業からの報告要請を考慮して、声明公表することの推奨、③前年度以前の声明公表についてインターネット上での継続掲載の推奨等が追記されました。こうした改訂は、英国が、企業による英国現代奴隷法コンプライアンスを推進させる意向であることを示しています。

2017年4月には、英国議会人権合同委員会から発表された「人権とビジネスに関する報告書」において、サプライチェーンにおける人権侵害を防止できなかった企業に対し処罰規定を設ける提案がなされており、今後、英国において、人権侵害防止に関する法の要求が益々厳格化される可能性があります。

オーストラリア現代奴隷法

2017年8月、オーストラリア政府は、大企業に対して、サプライチェーンを含めた現代奴隷に対する取組みについて報告義務を課す立法(「オーストラリア現代奴隷法」)の意向があることを公表した後、2017年12月、オーストラリア連邦議会委員会は、オーストラリア政府に対し、同法に関する意見として、具体的に、①組織構造、事業、及びサプライチェーン、②事業及びサプライチェーンに内在する現代奴隷リスク、③現代奴隷へ取り組むためのポリシー、手続、実効措置、④現代奴隷に関するデューディリジェンスの実施、⑤研修の実施といった事項を公表する義務を負わせるべきであると提案しています。

また、同意見においては、適用対象企業は、グローバルの年間売上として、5,000万オーストラリア・ドル以上の売上を有する、オーストラリアで事業を行っている企業(オーストラリアに本社があるか否かを問わない)とされるべきであると提案されています。日系企業も、当該要件を満たす限り適用されます。

現在、2018年の上半期内での立法化が目指されており、違反した場合の制裁規定として処罰規定が設けられるかといった点についても注目が集まっています。

EU紛争鉱物規制

紛争鉱物規制は、武装勢力の資金源となっている紛争鉱物について開示義務を課し、ひいては紛争地域における人権侵害の防止を図る立法です。EUでは、2014年3月に公表されたEU紛争鉱物規則案を受けて、2017年5月、同案を修正したEU紛争鉱物規制(EU2017/821)が採択されました。同規則は、スズ、タンタル、タングステン、金の輸入業者を対象として、サプライチェーンに対するデューディリジェンス等を義務付ける法制度です。適用対象となる輸入業者については、①デューディリジェンスをサポートする管理システムの導入、②サプライチェーンに対するデューディリジェンスの実施、③特定されたリスクの管理、④直接の取引先及び市民に対する一定の情報開示が義務付けられており、OECDから発表されている人権デューディリジェンス・ガイダンスに準拠する内容となっています。

同法の適用対象者は、リサイクルされた金属や在庫品以外の、スズ、タンタル、タングステン及び金を含む鉱物や金属のEUへの輸入業者であって、一定の輸入限界量を超える者です。日系企業も、当該適用要件を満たす限り適用されます。

本規制による法的義務は、2021年1月から発効し、EU加盟諸国において、国内法化の手続きを経ることなく、輸入事業者に対して法的拘束力を有することになります。規制違反に対する制裁は、各国の立法において具体化されることになっています。

紛争鉱物規制(米国金融規制改革法第1502 条)

米国では、2010年7月、米国金融規制改革法(通称「ドッド・フランク法」(Dodd-Frank Wall Street Reformand Consumer ProtectionAct))1502条が制定され、コンゴ民主共和国及びその周辺9ヶ国(以下、まとめて「コンゴ諸国」)における武装組織の資金源を断つことを目的として、企業に対し、紛争鉱物としての、スズ、タンタル、タングステン、金のうち、コンゴ諸国を原産地とするものの使用の有無等に関する調査・開示を義務付けています。さらに同法の制定を受け、米国証券取引委員会(SEC)は、2012年8月22日、最終実施規則を採択しています。

もっとも、同開示規制の適用については、当初より合衆国憲法修正第1条の表現の自由に抵触する疑いがあるとする意見があり、2014年には、D.C.連邦巡回区控訴裁判所において、同開示規制を課すことは商業上の言論を強制し違憲であるとの判断が下されました。こうした司法判断を受けて2017年4月、SECの委員長代行が開示規制の執行を停止する旨表明し、2017年6月には、ドットフランク法1502条の廃止を含む金融選択法(FinancialChoiceAct)の法案が下院を通過しており、今後上院でも当該法案が修正を受けず通過すればドッド・フランク法1502条は廃止となります。

もっとも米国連邦・州政府等の中には、調達要件として紛争鉱物の使用の有無等の調査・表明を求めている場合もあり、ドット・フランク法1502条の廃止によって同調査・表明がただちに調達要件から外されるわけではないことにも注意が必要です。

今後の実務対応

以上の重要なアップデートを踏まえ、今後の実務対応として以下の対応を提案いたします。

  • フランスに本社のあるグループ会社を有する日本企業は、同グループ会社について、フランス人権デューディリジェンス法の適用がないか確認し、適用がある場合においては、同法の規定する人権デューディリジェンス等の具体的義務を実施する必要があります。
  • 英国現代奴隷法の適用を受け、既に声明公表を行っている日系企業のみならず、同法の適用はないもののサプライチェーンに関する人権侵害リスクをかかえる日系企業についても、改訂された実務ガイドに新たに示されているベストプラクティスを参考にし、現代奴隷防止のための現在の取組みを見直すことで、人権侵害防止に関する最先端の取組みを実施することが可能となります。
  • オーストラリアで事業を行っている日本企業は、オーストラリア現代奴隷法の適用可能性を確認の上、適用可能性がある場合においては、将来的に同法に規定が予定される公表義務を遵守できるよう、準備を進めておく必要があります。
  • EUにおいて紛争鉱物の輸入事業を営む日系企業は、EU紛争鉱物規制への適用可能性を確認の上、適用可能性がある場合には、コンプライアンスをいち早く進め、2021年1月からの発効に備える必要があります。
  • 米国ではドッド・フランク法1502条が廃止される流れにあり、紛争鉱物の使用の有無等に関する調査・開示は不要とされる可能性が高くなっています。もっとも、米国連邦・州政府等の調達規制上、紛争鉱物の使用の有無等の調査・表明が引き続き求められる可能性もあるため、米国連邦・州政府等への納品取引があり、すでにドットフランク法1502条のコンプライアンスのための取組みを実施している企業においては、その取組みの廃止について慎重に検討する必要があります。

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