概要

自動車産業は、いうまでもなく我が国の基幹産業として長年にわたり日本経済の重要な地位を担い続けてきました。日本の製造業の中で最も早い時期にグローバル展開に着手し、すでに、完成車メーカーのみならず、Tier 1、Tier 2の部品サプライヤーを含む裾野の広い関連産業が海外に集積し、一大製造拠点を形成しているのも自動車産業の大きな特徴です。

しかし、昨今の国内市場の縮小から、特に部品メーカーを中心に、売上高の海外比率が50%を超える企業が増え、また、利益率の連単倍率格差が顕著化し、海外で獲得した利益をいかに日本本社に還流させるかが各社喫緊の課題となっています。特に数十年も前から進出の進んだアジア地域では、いままで各国ごとにとらえられていた市場をASEAN経済共同体の発足によりASEANという経済規模で整理しなおす必要が出てきたため、拠点の統廃合、地域統括拠点の設置、サプライチェーンの再構築を行うニーズが高まっています。さらに、激化する海外勢との競争を公正に戦うため、また、近時注目されているROE経営の観点から、租税の負担を海外勢と同じレベルに下げるべく、地域統括拠点の活用などにより適正なタックスプランニングを行うことが、日本企業にとっても必須になってきました。

海外収益に課されるタックスについては、今まであまり日本企業が詳細な検討を加えてこなかったのが実情ですが、積極的なタックスプランニングを行わないことは企業の競争力を減殺するばかりでなく、移転価格により当局から更正を受け巨額の追徴課税等を受けるリスクと表裏一体の関係に立っています。東南アジア諸国においても、当局の調査が活発化し、日本の自動車産業に対しても移転価格リスクが高まっています。同様に、利益の適切な管理という側面から見ると、ここ数年来、欧米のみならずアジア各国においても、日本の自動車部品製造業が国際カルテル摘発のターゲットとなり、巨額の課徴金の支払を余儀なくされ、また、クラスアクション等の集団訴訟の対応に苦慮しているという現実があります。

海外進出という観点からは、好調な北米市場への供給を行う拠点としてメキシコ等の新規新興国の重要性が一気に増しており、完成車メーカーの工場増設に伴い、部品メーカー等の周辺産業も追従して進出を検討せざるを得ない状況となっています。しかしながら、かかる新規新興国での事業展開には、外資規制、労働法制、会社法制、コンプライアンスなどすべての面で、すでに長年にわたる進出実績のあるアジア諸国とは相当異なる対応が求められます。

最後に、自動車産業においていま最も熱い話題が自動運転車・ライドシェアにけん引される新しいモビリティ社会への対応です。自動運転車の分野には、従来の自動車産業ではない異業種で培われた技術の導入が不可欠であり、IT産業など異業種からの参入、また、従来の自動車産業企業と異業種との技術資本提携などが進んでいるほか、この分野に携わる企業は、ビッグデータの収集、管理、使用許諾など今まで扱ってこなかった新たな法的問題への対処を求められることになります。

ベーカーマッケンジーは、アジア、ヨーロッパ、北・南米、アフリカ、中東の46か国に78のオフィスを構える世界最大規模の法律事務所であり、また、所内の各プラクティス・グループ(独占禁止法、コーポレートM&A、紛争解決、知的財産、税務等)が、過去数十年にわたり、世界中の自動車関連企業にサービスを提供してまいりました。このような広範なグローバルネットワークと実績を活かし、東京事務所では、日本の自動車産業の依頼者が抱えるあらゆるニーズに対応するため、2016年3月、Japan Automotive Industry Focus Group を新設しました。