ベーカーマッケンジーは、長年に渡り、当地域における事業支援を数多く行ってきたが、これまでの経験を踏まえ、主要国として、UAE、トルコ、サウジアラビア及びエジプトを挙げ、中東・アフリカ地域への投資を行う、又は検討している日本企業にとって有益な情報提供となるよう、法的側面から見た中東・アフリカ地域のヘルスケア分野の投資環境をレポートする。加えて、特に各国において法制度が異なり得る病院経営に関する法規制を中心に現地法規制を概説する。

第4回として、本ニューズレターにおいてはエジプトを取り上げる。エジプトでは、近年の人口増に伴う医療需要の拡大を受け、政府が積極的な医療サービスの拡充を進めている。また、2017年12月18日に国民皆保険制度を定める包括的健康保険法が国会で成立し(2018年から2032年にかけて段階的に施行)、エジプトは北アフリカで初めて皆保険制度を導入する国となる(旧法下では、健康保険の対象者は約58%にとどまっていたが、今後は、健康保険に基づく医療サービスを受ける者が大幅に拡大することになる)。こうした状況下、エジプト政府は国営医療機関の整備などに取り組んでいるが、拡大する医療需要のギャップを埋めるためには、民間資本による医療サービスの提供にも大きな期待が寄せられている。また、エジプトでは、2017年新投資法が制定され(6月1日施行)、外国投資に対するインセンティブの拡充、手続の簡素化、投資の保護の強化が進められるなど、外国資本の招致に前向きであり、日本からエジプトのヘルスケア産業への投資の拡大も期待される。

エジプトにおける医療サービスの状況

エジプトは、2014年の憲法において、全ての国民に対して、総合的な医療サービスを受ける権利を保障し、国家が国民に対して公的医療サービスを提供する施設を維持し、支援しなければならない旨を定め、医療サービスの拡充が国家の重要な目標となっている。また、急速な人口増(2017年時点で約9,300万人。1994年の約6,000万人から1.5倍以上に増加。今後も年率2.2%の増加が見込まれている)に伴い、医療需要が急増すると予想されている。こうした状況下において、保健省は26施設の医療機関を新設する計画を策定している。エジプトの医療機関は、その約6割の1,300施設が保健省の運営する公的施設であり、残る約4割が、大学、軍及び民間セクターにより運営されている。急増する医療需要に対応するためには、公的病院のみならず民間資本による医療サービスの提供の拡充が必須となっている。

ヘルスケア事業への投資環境

エジプトは2017年に新投資法を成立させ、旧法下での外国投資へのインセンティブを継続しながら、さらに税法上の優遇等を拡充させ、国内投資と平等の扱いをする旨定める等の投資保護に対する基本的姿勢を明らかにするなど、外国投資誘致の姿勢を維持している。

ヘルスケア分野における投資の法的枠組み

エジプトでは、公益的な観点から低所得者等に対し無償の医療行為を提供する医療機関等に対して、投資法によるインセンティブが認められている。また、医療事業への投資や医療法人の設立及び運営に関して、外国投資家の参入の障壁となる医療事業に特有の規制は存在しない。もっとも、既存の医療機関を買収する場合には、保健省の許可が必要になる可能性がある点には留意すべきである。

医療事業を営むための事業形態については特段の規制はなく、会社法等に基づく一般的な法人による事業運営が可能である。また営利活動として医療事業を展開することも否定されていない。

ヘルスケアビジネスに関する法規制

次頁以降の表は、エジプトにおける病院経営を中心とするヘルスケアビジネスに関する法規制について、特に関心が高いと思われる事項をまとめたものである。

エジプトにおけるヘルスケアビジネスに関する法規制

以下に記載された情報は、ある規制機関との非公開協議に基づいているため、実務とは異なる場合があります。従って、本は参考情報の提供を目的としており、法的助言を構成するものではなく、法的助言として依拠すべきものではありません。

テーマ 回答

1.医療機関の設立・運営に関する法規制

医療施設は主として医療施設法(Law No. 51 of 1981 and its Executive Regulations, as issued by Decree No. 216 of 1982 – “Health Facilities Law”以下、「医療施設法」)によって規制されている。同法は民間施設に対し、許認可、品質保証、人員、設備及び管理の観点から規制を課している。エジプトでは、他にも医療業務や医療従事者に関する法律が定められている。また民間施設

2.医療機関の設立・運営に関するライセンスの概要

  • 医療施設法第2条によれば、民間医療施設は事前に関係のある総督(Governor)より許可を取得し、かつ医療団体に登録をしなければ、業務を行うことができない。また同法の第3条は、民営医療施設では有資格の医師が運営・監督し、院長の役割を担うことを義務付けている。
  • 2014年保健省令第497号(Article 1 of Ministry of Health Decree No. 497of 2014)第1 条により、医療施設法その他の関連法令(医薬品取扱い施設の開設に関する1955年法令第127号等)を満たしたうえで、かつ保健省からの許可を得なければ、民間医療機関を開設することはできない。
  • 一般に、業許可には、その他の条件が付されることがあり、例えば、環境法第29条(Article 29 of the Environmental Law No. 4 of 1994)に従って、廃棄物管理許可を取得することなどが求められる。
  • そして、2001年令第60号(Decree No. 60 of 2001 (2004 年令第47 号により改正))により、病院の新設に関する許可申請を審査する常任委員会が発足した。同令により、常任委員会は、病院の売却、業務内容の変更又は経営移転などの方法により既存の医療業務を処分する場合の許可についても審査するとされている。

3.医療機関の運営に関する特別規制

エジプトでは、一般に、医療施設法及び関連する省令等を除き、医療機関の運営を規制する法律はない。医療法人は一般的な法人と同様の規制を受ける。具体的には、会社法(Companies Law)、投資法(Investment Law)、資本市場法(Capital Market Law)及び会社登録法(Commercial Registration Law)等の規制を受ける。

4.医療機関の設立・運営に関する外国投資家への規制

一般に、エジプトでは外国資本による投資は制限されておらず、規制の対象となるのは商業目的エージェント事業、商業目的輸入業、指定地域内の農地又は砂漠地の所有などの事業に限られている。一方、不動産に関しては、外国投資家による土地又は不動産の所有は、一定程度制限されている(シナイ半島地域は大臣法令及び投資法(Prime Ministerial Decree and the Investment Law No 8 of 1997)により例外的扱いを受けている)。

2014年令497号(Ministerial Decree No. 497 of 2014)により、既存病院の売却その他の方法による処分は、保健省の関連部局の許可がある場合にのみ、効力を生じる。

5.医療機関の運営に関する法的基盤

一般に、民間医療施設はその他の法人と同様に、会社法(Companies Law No.159 of 1981)に基づいて運営がなされるため、会社に適用されるコーポレートガバナンス要件も遵守する必要がある。

6.医療機関の運営に関するガバナンス構造

会社に適用される法律と同じ。

7.医療機関は営利活動を行うことができるか

可能である。但し、保健省による許可及び規制上の要件に従わなければならない。

8.医療機関に対する出資は可能か

民間医療施設に出資することは可能である。

9.医療機関の一般的な買収方法

合併及び買収並びに株式取引が可能である。

10.医療機関への投下資本の回収方法

配当金、株式売却、(投資が負債によって構成されていれば)ローンの返済といった方法がある。

11.外国資本による医療事業への典型的な参入方法

民間医療施設に出資する際には、法人又は不動産に対する投資と同様の方式をとることが可能である(税務上の検討が必要)。

12.外国資本にとっての重要な参入障壁

取引に際して、保健省の許可を取得することは必要であるが、その他に特段の参入障壁はない。

13.外国人医師は現地で医療業務を行うことができるか

医師資格に関する法律(Law No. 415 of 1954)により、一般に、医師は保健省及び医師団体にて登録を行い、かつ、エジプト人であるか、エジプト人でない場合には、互恵待遇を有する国の国民であることが求められている。

また、原則として、医療施設法によれば、医療施設にて就業するためには、医師はエジプト国民である上に、医師連合に登録している必要がある。外国人医師も医師として就業することは可能であるが、①医師団体法に基づき(medical syndicate law)、医師団体に登録することが可能である医師(但し、互恵的扱いが存在し、かつ当局の承認が得られていること)、又は②地域医療には存在しない、専門知識・技能を持つ有資格の外国人専門家(この場合、保健省及び医師団体の理事会からの事前許可が必要となる)。

14.外国人看護師は現地で看護業務を行うことができるか

看護師資格については、1952年令第1号(Decree No. 1 of 1952)の規制を受ける。看護師は、登録要件を満たした上で、保健省に登録しなければ、看護師業務を行うことができない。

外国人看護師又は海外の学位を有する看護師は、看護師審議会(Nursing Council)によって構成される委員会によるエジプトの看護師試験(アラビア語で実施)に合格し、准看護師としての資格を取得しなければならない(なお、外国語で試験を受けるためには、事前に保健省の大臣の許可が必要)。

15.医療保険制度の概要

医療保険制度は、一般に保健省及び健康保険機関(Health Insurance Organization)によって監督されている。1975 年法第79 号(Law No. 79 of 1975)により、公務員も適格被保険者とされており、また、健康保険機関は、就学者も適格者としている。

また、民間の保険会社(エジプト金融監督機関(Egyptian Financial Supervisory Authority)において登録され、監督される)による医療保険も利用することが可能である。

16.医療法人や医療業務のための税制面での優遇

病院、医療・治療施設に携わっている法人で、その事業のうち10%の医療行為を無償で提供している場合、投資法(Investment Law No. 8 of 1997)によるインセンティブを受けることができる(但し、税の免除及び優遇措置は廃止された点に留意)。

中東・アフリカグループでは、今後もこの地域のヘルスケア投資環境情報を注視してまいります。なお、一般的な医療・ライフサイエンス分野の法的支援に関するお問い合わせは、marketing.tokyo@bakermckenzie.comにご連絡ください。

本ニューズレターは、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。また執筆中にも現地法規制が改正される可能性があります。お問い合わせ等ございましたら、担当弁護士までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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