概要・施行予定日

2017年5月24日に公布された「金融商品取引法の一部を改正する法律」により、発行者が未公表の決算情報等の重要な情報を証券アナリスト等に提供する場合等に、他の投資家にも公平に情報提供することを求める、フェア・ディスクロージャー・ルール(以下、「FDルール」)が金融商品取引法に新たに盛り込まれました。FDルールの施行日は、2018年4月1日と予定されています。

FDルールによれば、上場会社、上場投資法人若しくはその資産運用会社又はこれらの役職員が、その業務に関して、金融商品取引業者等の「取引関係者」に、その上場会社等(上場会社及び上場投資法人)の公表前の「重要情報」の伝達を行う場合には、原則として、当該上場会社等は、その伝達と同時に、その重要情報を「公表」しなければならないとされます(改正金融商品取引法第27条の36第1項)。このようなルールを置いた背景として、近年、発行者の内部情報を顧客に提供して勧誘を行った証券会社の事例で、発行者が当該証券会社のアナリストのみに未公表の業績に関する情報を提供していたなどの問題が発生したこと、投資家からも欧米と同様のFDルールを整備してほしいとの要望が出されていたことがあります。今般、FDルールの導入により、発行者側の情報開示ルールが整備・明確化されることになり、発行者による早期の情報開示、ひいては投資家との対話が促進されるといった意義があるものとされています。

規制の対象となる当事者

(1) 情報提供者

FDルールによれば、その規制対象となる情報提供者は、上場会社等若しくは上場投資法人の資産運用会社又はこれらの役員等(役員、代理人若しくは使用人その他の従業者)とされています。このうち、上場会社等の代理人又は使用人その他の従業者については、取引関係者に情報を伝達する職務を行うこととされている者(例えば、広報やIR部門の担当者が想定されます。)のみが規制の対象となります。これに対して、役員については、このような限定はなく、常にFDルールの規制の対象となります。

(2) 情報受領者(「取引関係者」)

次に、FDルールの規制対象となる情報の受領者(「取引関係者」)とは、次の者をいいます。

①金融商品取引業者、登録金融機関、信用格付業者若しくは投資法人その他の内閣府令で定める者又はこれらの役員等

2017年12月27日に公布された「金融商品取引法第二章の六の規定による重要情報の公表に関する内閣府令」(以下「重要情報公表府令」といいます。)において、一定のアナリストや高速取引行為者も「取引関係者」として規定されています(重要情報公表府令第4条)。

②上場会社等の投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受け、当該重要情報に基づく投資判断に基づいて当該上場会社等の上場有価証券等に係る売買等を行う蓋然性の高い者

当該上場会社等の上場有価証券の保有者(株主)、適格機関投資家、投資を主たる目的とする法人等、IR会議の出席者等がこれに該当します(重要情報公表府令第7条)。

重要情報(規制の対象となる情報)

(1) 重要情報の定義

FDルールの規制の対象となる「重要情報」は、上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすものと定義されています(改正金融商品取引法第27条の36第1項)。このようにFDルールでは「重要情報」の定義は概括的な内容になっており、金融商品取引法又は重要情報公表府令においても、「重要情報」の範囲を更に具体的に明確にする基準がない点は留意する必要があります。

(2) FDルールガイドラインにおける見解

この点に関し、金融庁が2018年2月6日に公表した「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」(以下、「FDルールガイドライン」)において、「重要情報」につき、「未公表の確定的な情報であって、公表されれば有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性のある情報」を意味するとの見解が示されています(FDルールガイドライン問2)。

また、FDルールガイドラインにおいて、金融庁から、FDルールを踏まえた情報管理については、上場会社等は、それぞれの事業規模や情報管理の状況に応じ、次のいずれかの方法により重要情報を管理することが考えられる旨の見解が示されています(FDルールガイドライン問2)。

①諸外国のルールも念頭に、何が有価証券の価額に重要な影響を及ぼし得る情報か独自の基準を設けてIR実務を行っているグローバル企業は、その基準を用いて管理する。

②現在のインサイダー取引規制等に沿ってIR実務を行っている企業については、当面、

  • インサイダー取引規制の対象となる情報、及び
  • 決算情報(年度又は四半期の決算に係る確定的な財務情報をいいます。③において同じ。)であって、有価証券の価額に重要な影響を与える情報を管理する。

③仮に決算情報のうち何が有価証券の価額に重要な影響を与えるのか判断が難しい企業については、インサイダー取引規制の対象となる情報と、公表前の確定的な決算情報を全て本ルールの対象として管理する。

(3) 個別事例-中期経営計画の取扱い実務等への影響等

金融庁は、中長期的な企業戦略・計画等について、「今後の中長期的な企業戦略・計画等に関する経営者と投資家との建設的な議論の中で交わされる情報は、一般的にはそれ自体では本ルールの対象となる情報に該当しない」と述べる一方で、「ただし、例えば、中期経営計画の内容として公表を予定している営業利益・純利益に関する具体的な計画内容などが、それ自体として投資判断に活用できるような、公表されれば有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性のある情報である場合であって、その計画内容を中期経営計画の公表直前に伝達するような場合は、当該情報の伝達が重要情報の伝達に該当する可能性がある」という見解を示しています(FDルールガイドライン問4)。また、中期経営計画に含まれることのある経営に関する仮説や選択肢については、一般的には、確定的な情報とはいえず、重要情報とならないとの見解が示されています(2018年2月6日に金融庁が公表したFDルールガイドラインに対するパブリックコメント(以下、「パブコメ」)13に対する回答)。

かかる見解は、上場会社等による今後の中期経営計画を踏まえた投資家向けの説明等の取扱い、中期経営計画の公表の実務、情報管理に関する社内体制の見直しの必要性等に関連して、少なからず影響を与えることになるものと思われます。

FDルールの例外規定

(1) 取引関係者が守秘義務等を行う場合

上記FDルールには一定の例外が存します。まず、法令又は契約により、取引関係者が、次の①及び②の義務を負う場合には、上場会社等は、取引関係者に伝達した重要情報を公表する必要はありません(改正金融商品取引法第27条の36第1項但書)。

①伝達された重要情報が公表される前に、重要情報に関する秘密を他に漏らしてはならず(守秘義務)、かつ、

②当該上場会社等の上場有価証券等の売買等をしてはならない義務

ただし、係る例外規定にはさらにその例外があり、取引関係者が上記の守秘義務等を負う場合であっても、上場会社等は、取引関係者が、法令又は契約に違反して、当該情報が公表される前に、当該情報に関する秘密を他の取引関係者に漏らし、又は、当該上場会社等の上場有価証券等に係る売買を行ったことを知ったときは、上場会社等は速やかに、当該重要情報を公表しなければなりません(改正金融商品取引法第27条の36第3項本文)。すなわちFDルールの原則に戻ることになります。

もっとも、同条第3項但書においては、やむを得ない理由により当該重要情報を公表することができない場合には、公表を行う必要がないものとされています。この「やむを得ない理由」とは、合併・会社分割等の組織再編等の行為又は株式の募集・売出に係る重要情報で、公表することにより、その行為の遂行に重大な支障が生じるおそれがあるときが該当します(重要情報公表府令第9条)。

なお、上場会社等が取引関係者に情報を伝達する場合に、重要情報に該当するかについての対話を行い、重要事実に該当しないとの判断に基づき、又は上記の例外に基づき情報の公表を行わない場合には、上場会社等又は取引関係者において、その判断経緯等について書面化する対応も示唆されています(パブコメ11に対する回答)。

(2) 重要情報に該当することを知らなかった場合や伝達と同時に公表することが困難である場合

上記FDルールには次のような例外も存在します。すなわち、上場会社等は、以下のいずれかに該当する場合には、取引関係者に伝達した重要情報を伝達と同時に公表する必要はありません(改正金融商品取引法第27条の36第2項本文)。

上場会社等若しくは上場投資法人の資産運用会社又はこれらの役員等が、

①その業務に関して、取引関係者に重要情報の伝達を行った時において伝達した情報が重要情報に該当することを知らなかった場合、又は、

②重要情報の伝達と同時にこれを公表することが困難な場合として内閣府令で定める場合(意図せずに重要情報を伝達した場合、又は相手方が取引関係者であることを知らなかった場合(重要情報公表府令第8条))

これはFDルールにおける重要情報を伝達している旨を知らない者まで規制することを除外する趣旨と考えられます。ただし、当該上場会社等は、取引関係者に重要情報の伝達が行われたことを知った後、速やかに、当該重要情報を公表しなければならないものとされます(改正金融商品取引法第27条の36第2項第二文)。

公表方法

公表の方法は、内閣府令で定めるところにより、インターネットの利用その他の方法によるものとされます(改正金融商品取引法第27条の36第4項)。公表の方法として、EDINETやTDNetによる開示の方法(重要情報公表府令第10条第1号、第3号)の他、上場会社等がそのウェブサイトに重要情報を掲載する方法も認められます。ただし、当該ウェブサイトに掲載された重要情報が集約されている場合であって、掲載した時から少なくとも1年以上投資者が無償でかつ容易に重要情報を閲覧できることがその要件とされます(重要情報公表府令第10条第5号)。

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